【ネタバレなし】『網内人』を読んだ感想。2020年度週間文春ミステリー・海外部門ベスト5

『網内人(もうないじん)』とは

網内人表紙

台湾の推理小説家、陳浩基先生が2017年に発表した本格華文ミステリー小説。
2020年9月に日本語訳され、文藝春秋社より発売。
2020年度週間文春ミステリー・海外部門ベスト5にランクイン

著者について

陳浩基(ちん こうき/サイモン・チェン)1975年生まれの香港の推理作家。
名門・香港中文大学でコンピューター・エンジニアリングを学び、ソフトエンジニアを経て作家デビューしたという経歴の持ち主。
(元々同業者と言うことで勝手に親近感を覚えています)

日本でも人気が高く、多くの著書が日本語訳され発売されている。
wiki

日本語訳された著者の作品

  • 世界を売った男
  • 13・67
  • ディオゲネス変奏曲
  • 網内人

『網内人』のあらすじ

二人姉妹の妹が痴漢被害に遭う所から物語は始まる。
被害者である筈の妹が、痴漢被害でっちあげ犯として某掲示板に個人情報を晒されてしまう。
ネットでの誹謗中傷、周囲から奇異の目に耐えきれなくなった妹は、自らの命を断ってしまう。
残された姉は、妹の無実を証明し、掲示板に書込みを行った人物を特定するため、知人の伝手を頼り、インターネット関係に詳しいとされる凄腕の私立探偵に事件の捜査を依頼する。調査を進めて行くうちに、姉の知らなかった妹の姿が徐々に浮き彫りになってくる。

そもそも本当に妹は無実なのか?
凄腕の探偵とは一体何者なのか?
掲示板に書込みを行った人物は、一体誰で、なんのためにそんな事をしたのか?

全ての謎が解けたとき、貴方は一体何を思うのか?

華文ミステリーとして非常に評価の高い作品です。

『網内人』を読んでの感想

久しぶりに本格ミステリー小説を読んだ。
内容は先に書いたとおり、昨今日本でも問題になっているネットでの誹謗中傷が題材となっており、現代の社会問題とリンクする部分が多く、違和感なく物語に入り込むことが出来る。
小説の内容上、インターネット関連の用語も沢山出て来るが、分かりやすく小説内で説明されているので、その辺の知識に疎い人でも問題なく読み進められる。
ネットに潜む悪意を炙り出し、標的を絞る過程は新鮮で緊迫感があるため、長めの小説になっているが、物語はスピーディーに進んでいくので、中盤以降、物語が確信に近づくにつれ、寝る間を惜しんで一気に読破した。

丁寧に埋め込まれた伏線。
ラストに向けて怒涛のごとく回収される伏線。
なるほど! そう言う事か。関心させられっぱなしでした。

後書きでも触れられていますが、陳先生はアルセーヌ・ルパンが好きらしく、それをイメージした小説を書きたかったらしい。
しかし現代において、高級な宝石や絵画を盗み出す怪盗はいささかリアリティに欠ける部分があり、現代の怪盗=ホワイトハッカーとして本作を執筆されたようだ。
個人的にルパン三世が好き! っと言う方には愉しんで読んでもらえるのではと思っている。

本作はシリーズ化を予定しており、次回作も非常に楽しみだ。

一点注意点を挙げるとすれば、地名も登場人物名も中国名だ。(当然ですが)
なので、筆者は慣れるまで少し違和感があった。
それを踏まえても非常に面白い小説ですので、ぜひ一度お手に取って頂けたらと思う。

最後に

ミステリーファンの間では、本作と陳先生の過去作『13.67』のどちらが優れたミステリーか話題になったそうだ。
『13.67』後の今日の香港を書くつもりはないのか? と言う記者の質問に『網内人』がその答えだと答えたとされている。
っと言う事は『13.67』では過去の香港が描かれているのだろうか?
本書が満足いく内容だったので、旧作にも興味をそそられる。

既に読書待ちの国内作2作をKindleで購入済みなので、そちらが読み終わったら『13.67』も読んでみたいと思う。

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